2012年03月26日

#4

いつの日からか、上手に眠れなかった日は眼鏡を掛けるというのが習慣になっていた。
ぼんやりとした頭で眼鏡をかけて、ダフトパンクを聴きながら
まだ寝ぼけているような、少し赤みがかった灰色の街を歩いていると、なんだか安心する。
ふと気を抜いてしまえば、今が朝方なのか夕方なのか忘れてしまいそうになる。
その不思議な感覚がぼくはとても好きだった。

ある日のこと、駅へと向かう途中。
収集される前に、と悪戯っぽく袋を突くカラスと目が合った。
「はろー、幸せかい?」とカラスが言った。
「まあ、それなりに」と答えた。
動揺してはいけない。まだ半分寝ているのはぼくの頭もこの灰色の街も同じで、
そこにはそこの、従うべきルールがある。
・夜中に口笛を吹いてはいけない(蛇が来るから!)。
・二十歳を過ぎたら横断歩道の白いところだけ狙って歩いてはいけない(もう大人だから!)。
・暖かいミルクを切らしてはいけない(突然の"来客"を迎えるため!)
ぼくは落ち着いて・ある日突然、カラスに幸せかと聞かれても動揺しない。という項目を加えた。
カラスはつまらなそうに、ああそうかい、それならそれで。とか言いながら、高く飛び上がってそのまま向こうへ行ってしまった。
何か、間違えてしまった気がした。

うまく眠れそうに無い夜に、ぼくは考える。
あの時、ぼくはなんて答えればよかったのだろう。
「はろー、幸せかい?」
カラスの声をなんども繰り返してみる。
幸せなんて考えたことも無かったくらいに幸せなぼくは、
今日もまたそんなことを考えて眠れそうに無い。
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posted by HarmKia at 04:34| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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