2012年01月02日

#3

 高いところから遠くの街を眺めたとき、指一本で隠れてしまう小さな建物に、
自分と同じくらいの大きさの人間が生きて動いていることがどうしても納得できなかった。
同時にそれは、向こうからこちらを見たときに抱かれるであろう不思議であって、
互いに同じ不思議を共有していながら名前も顔も知らずに、
きっと一生顔を合わすことなく生きていくという当たり前のことに理不尽さを感じていた。
 陽が落ちるのが早くなった。風が吹いて寒さをぼくは思い出した。
既に夕焼けの時間は過ぎていて、遠くのほうで必死にまだ自分はここにいるんだ、と太陽が時間に対して、あるいは何か大きな流れのようなものに対して抵抗しているように見えた。

「あいつ変わったよな。少し前は、文句があるなら言ってみろよ。って顔して高いとこにいたのに。」
とぼくは言った。
隣で同じようにぼんやりと外を眺めていた友人が顔を向けた。
「なんの話?」
と友人が言った。
「なんでもないよ。ただ時間の流れって残酷だよなって思っただけ」
とぼくは返した。
友人はいつものように話を流して、また沈黙が戻った。
それからどちらが先ということもなく、ぼくと友人はポケットから煙草のパッケージを取り出し、一本を咥え火をつける。
こうやって、放課後に屋上で暗くなるまでぼんやりしながら、たまに煙草を吸う。それが日常だった。
同じような毎日を繰り返していながら、一日は過ぎて積み重なっていく。
昇っていく二本の煙のを見ながら、まるで狼煙のようだな、とぼくは思った。
けれども煙はすぐに曖昧に形を失って消えていく。これじゃあ誰も気付いてくれやしないだろう。
「駄目だ、今日はちょっと吸いすぎた。」
と友人が言った。
「うん」
とぼくは返した。


posted by HarmKia at 01:02| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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