2010年08月25日

#1

時計の針は2時47分を指していた。秒針は一秒を延々と刻み続けている。
厳しい上司に命令されているのか、それとも不器用でそれしかできないのか、
針はハシることもモタることも無く一秒ずつ盤の上を歩いていた。
ぼくはインスタントコーヒーを飲みながら煙草に火を付けた。
余談だが、ぼくの作るコーヒーは美味しくない。もっと言ってしまえば不味い。
というのも、ぼくはコーヒーを飲むことが好きなのであって、コーヒーであれば味には特にこだわりを持っていないからだ。
粉の分量を量ることはせずに、出たら出た分だけをお湯に溶かす。砂糖はスプーン一杯入れる。ミルクはほんの少し、まじない程度に。
習慣と言うのは怖いもので、作り続けているとある程度の違いはあるにしろ大体同じような味になる。
コーヒーがいきなりジン・トニックやドクターペッパーの味になることはおそらくあり得ないので、
美味しいかどうかを別にすれば粉を入れ湯を注げばコーヒーの味になる。そしてぼくはそれに満足している。
煙草の灰を落とし銜え、吸う。先端が命を吹き込まれた人形の目のように赤く光る。息を吐く。白い煙が形を崩しながら上へと昇っていく。ぼくは目を閉じる。
極彩色の幾何学模様が暗闇に浮かぶ。あるものは形を変え、あるものは点滅し、またあるものは視界から消えた。
思考をしばらくそれに預け、ぼくはその模様が浮かぶ広大な黒い海に呑みこまれる。秒針の足音だけが耳に届く。
黒い海水が体中の穴に入る。体内のすべてがそれに溶け同化する。ぼくは黒い海の一部になる。黒い海がぼくの一部になる。
息を吐き目をあける。煙草の灰は長く上手にバランスを取りながら形を保っている。火はフィルターの近くまで来ていた。
ぼくは灰皿のくぼみにそれを置いた。
時計はたぶん3時過ぎを示している頃だろう。
posted by HarmKia at 04:26| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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